恋の始まりは偽装結婚
 一週間前に日本人の男性と恋に落ちて結婚することを伝えたとき、祖母は涙を流して喜んでくれた。

 外国人と結婚するのも良いけれど、やはり祖父のような男気溢れる日本人と幸せになってほしいと、思っているのを私は知っていた。

 時々そんなことを言っていたから。

 けれど、新郎役を頼んだ日本人、笠原さんは今頃日本行きの飛行機の中。

 こんな見せかけだけの結婚式はだめなのだと、神さまは言いたいのだろうか。

 だから、彼を日本へ戻したの?


「気分が落ち着いたら中へ来なさい。冷たいレモネードを用意しておきますよ」

物思いにふけってしまった私の耳に、牧師さまの声。膝の上で組んだ私の両手に牧師さまはふんわりと手を置いた。

「……ありがとうございます」


 牧師さまは困惑したままの私をその場に残して、チャペルの中に入っていった。

 この計画はあきらめるしかないのかもしれない。

 日本人の男性友人は笠原さんだけだったし、日本人旅行客にこんなこと頼めないし。
 
 旅行者は限られた時間しかないのだから、こんなめんどくさいことに協力してくれるわけがない。

 ……でもまだ探す時間はあるよね。今日はあきらめて、おばあちゃんと美味しいものでも食べに行こう。

 どんどん進んでいく自分の病気で私に迷惑かけたくない祖母は自ら施設に入る手続きをしてしまい、一ヵ月前から施設に入っている。

 外食は付き添いがあれば受理されるだろう。


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