未来の君のために、この恋に終止符を。
「うるさくしてごめん。もう大丈夫だから」
明らかに誤魔化す言葉で、お母さんも納得していないだろう。
だけど私がもうなにも言うつもりはない様子を見せたから、なにかあったら呼んでね、と名残惜しげに足を動かす。
それはまるで影を残していくつもりかと疑いたくなるほど、ゆっくりとした動作だった。
お母さんに声が届かないよう、そしてなにより部屋に入らないなんて彼女からしたらおかしなことだから。
仕方がなく自分の部屋に足を踏み入れて扉を閉める。
「おばさんはやっぱり実莉に甘いね」
そんなこと言われなくてもわかっている。
2年前から、お母さんはずっとそう。
私にとても優しくて、やるせなくなるほど……優しくて。
互いに相手のいないところで落とされるため息は、きっと涙の色に染められている。
なんとかお母さんにこの場から離れてもらえたことで気が緩んだのもあるんだろう。
ようやく体の感覚が戻ってきて、汗で貼りついたセーラー服をさっきよりずっと気持ち悪く感じる。
その苛立ちが向けられるのは、もちろん私の部屋に居座っている男だ。
「晴樹みたいに呼ばないで」
気安くうちのお母さんのことをおばさんだの、私のことを呼び捨てにするだの、そんなことを許した覚えはない。
許しているのは、晴樹だけ。
ただひとり、私の幼馴染……恋人だけだ。
なにかを言いたげに唇を震わせた彼は、吐息だけをこぼして感情を呑みこむ。
きっと彼が晴樹のふりをしているせい。
その様子が、晴樹の影を重ねるようにかぶって見えた。