スノウ・ファントム



 * * *


私は週に二回、学校の最寄り駅のそばの塾に通っている。

その日も塾があったけれど、帰りのホームルームが長引いたせいで、急いで塾に向かわなければならなかった。

急に曇り出した空が今にも雨を降らせそうな暗い色で、傘を持っていなかった私は余計に足を速める。


(信号……点滅してる。でも、いけるよね)


歩行者信号をちらっと見て、思い切りダッシュしようとして――

でも、次の瞬間、突然私の腕が後ろに引っ張られて、肩が抜けそうになった。


「痛っ……! だ、だれ?」


びっくりしたのと、急いでるところを引き留められたのとでムッとした私が不機嫌顔で振り返ると、そこには知らない男の子がいた。

肌が白くて、染めたわけではなさそうな、色素の薄い茶色の髪。そのはかなげな雰囲気に似合う、薄茶色の瞳は大きくてくりっとしてる。

パッと見ただけで美少年だとわかる彼は、この近くの私立高のブレザーを着ていた。


(塾にこんな人いたっけ……? いたとしても、他校の人と関わったことないけど)


何の用?と視線で問いかけると、赤に変わってしまった信号を指さして、男の子は言う。


「ギリギリで渡るのって危ないよ。あと、この傘……貸してあげる」

「傘……? でも、雨なんて」


降ってない、と言おうとしたところで、鼻の頭にひんやりとした感触があった。

思わず空を見上げると、重たい鉛色の雲から粉雪が舞い始めたところだった。


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