スノウ・ファントム
「雪……」
白い息とともにつぶやいた私に、男の子は自分の持っていた傘を無理やり握らせた。
「返さなくていいから」
「え? でも」
「急いでるんだよね? ほら、もうすぐ青になるから、行って」
ニコッと微笑まれると、なんだか断れなかった。
うなずいた私が傘を開いてみると、淡いピンク色の中に無数の小さなリボン柄。
(これって……!)
私はある偶然に驚いて、男の子の顔をまじまじと見つめる。
すると舞い散る雪の中で微笑んだ彼はこう言った。
「キナコが欲しかったの、それで合ってるよね?」
(……キナコ?)
その呼び方に首を傾げつつ、でも頭の中はもっと違う疑問でいっぱいだった。
どうして知っているんだろう。ついこの間、友達と訪れた雑貨屋さんで、私は確かにこれを欲しいと思った。
でも、友達はもっと派手な柄の傘を『可愛い~!』と言っていたから、『そうだね』と意見を合わせるだけで、自分の趣味は口に出さなかった。
ただ、心の中で“あの傘、いいな、欲しいな”って思っただけだったのに。