スノウ・ファントム
◇無言


――ルカはきっと、私と会える日には一生懸命、二人の思い出を作ろうとしているんだ。


突然にキスをされた帰り道、私はルカの隣を歩きながらそう感じていた。

ルカが遥くんだったころは、私に声をかけることすらできなかったと山野くんに聞いた。

それなのに、今はそんな過去の彼とは真逆で、かなり積極的。

一度死んでしまって、いわば生まれ変わったからといって、そんな簡単に性格まで変わってしまうものなのかな?と少し疑問に思っていたけど、今日のルカを見ていてわかった。

私から、バレンタインにチョコレートが欲しい。

それはきっと遥くんが叶えられなかった願いで、ルカだって、軽い気持ちで言ったわけじゃない。
さりげない調子だったけれど、本当は勇気を出して言ってくれたんだって。


それに、チョコのことだけじゃない。

他愛もない話をしたり、手をつないだり……さっきの、キスだって、ルカの唇は少しだけ震えていた。

本当は、私にどう思われるのか、ルカだって怖かったはずだ。

それでも、後悔を残したくなくて、勇気を振り絞って、一歩を踏み出したんだ。

そんなルカの気持ちを思ったら、拒絶なんてできなかった。

触れた唇から、ルカの想いが痛いほど伝わってきて、泣きそうになった。


そんなにも私を好きでいてくれて、本当にうれしい。できることなら、ルカの気持ちに応えたい。

でも……そこに、少しの同情も挟んでいないって、胸を張って言えるだろうか。


ルカに、ひとつでも多くの、楽しい思い出を残してあげたい。

そう思うことは、やっぱり、恋とは少し違うんじゃないかって……そんな気がしてしまうんだ。


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