クールなCEOと社内政略結婚!?
「これ、ご自身でミルもするんですか?」

「平日の朝は粉を使う。時間のあるときは自分でミルすることもあるがな」

 カウンター越しにこちらを覗き込んで答えてくれた。

 私はコーヒーメーカーに粉をセットし、冷蔵庫のペットボトルから水を注いで、キッチンの観察をはじめた。……といっても、立派なコーヒーのセットはあるけれど、どの引き出しを開けても調理器具のひとつも見当たらない。食器棚に置かれている値の張るだろう食器も、長い間使われた形跡もなくショップのように飾られているだけだ。そしてカウンターの上に〝キッチン〟と書かれた段ボールがひとつ乗っていた。それは、私の部屋から運び出された荷物だ。

 きっちりと張られたガムテープを剥がして、中身を取り出した。使い古したフライパンや鍋。雑貨屋や百円ショップでそろえたけれど、厳選したお気に入りの食器たちを引き出しや食器棚に並べる。なにか言われるかと思ったけれど、特になにも言われなかったのでそのままにしておく。

 まだ途中だったけれど、コーヒーができあがったので、すぐに温めたコーヒーカップと自分の部屋から持ち出した愛用のマグカップにコーヒーを注ぎながら声をかける。

「ブラックでいいですか?」

「あぁ」

 新聞を読みながらこちらを見ずに返事をした。私は自分のコーヒーに冷蔵庫にあった牛乳の賞味期限を確認してからそそぎ、ふたつを持ってダイニングへ移動した。
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