クールなCEOと社内政略結婚!?
「お待たせしました」

 カップを置くと「ありがとう」と言われた。素直にお礼が来ると思わなかったので、思わず驚いてしまう。そんな私に社長は不満そうだ。

「俺が礼を言ったのがおかしいか?」

「いえ、でもいつも〝やってもらってあたりまえ〟なのかと思っていました」

「バカ言え。世の中タダより高いものはないからな。何にでも裏がある……で、お前はどうして俺のコーヒーなんて淹れようと思ったんだ?」

 さっそく魂胆を見抜かれそうになってギクリとするが、笑顔を浮かべてごまかした。

「せっかく夫婦になったのに、顔と名前以外ほとんど何も知らないなぁと思って」

 これなら嘘はついていない。社長のことを知ろうと思ったのは事実だ。

「ふーん。まぁ今日からは会社でも会うんだから、焦る必要ないだろう」

「そうですね……」

 マグカップのコーヒーを一口飲んだ。さすが社長が御用達のコーヒーだけあって、香りも高くて美味しい。……ん?

「あの……会社でも会うっていいましたか?」

「当たり前だろう。同じ会社なんだし、夫婦なんだから」

 興味なさそうに新聞を読みながらコーヒーを口に運んでいる。私はと言えば、先日社長がデザイン部にいきなり現れたときのことを思い出していた。
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