浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)
幸せな笑顔

「透子ちゃん、これでいいのかな?」

ゆかりさんは落ち着いたお姉さんスーツを着ているのに、さすがは夜のお仕事をしていただけあって華やかだ。

丁寧に作成されたの伝票を差し出して、私に教えを乞う。

「あ、はい。完璧です!」
「あ、ほんとだぁ。すごいですね!もうほぼ仕事覚えたんじゃないですか?出入りの激しい事務所のメンバーの名前も覚えてるし。まだ数日なのに……」
ミキちゃんは伝票を覗きこんで大絶賛だ。

そう。ゆかりさんは結局採用となった。
もちろん、たった一件応募があった人も面接はしたが、彼女は面接時間に遅れてきたのだ。しかも連絡も悪びれもせず。
他の応募者が居ないなら採用したのかもしれないが、昔気質の社長は「連絡もせず面接に遅れるとは言語道断」とゆかりさんを採用した。
ゆかりさんは面接の次の日から入社したのだった。

「名前と顔を覚えるのは、スナックの仕事で鍛えられたかなぁ。でも他には何も出来ないのよ。」
「お茶も上手に入れれるし~社長は大満足ですよ!」
「店でも時々入れてたしね」
「気遣いもできて~皆喜んでます!ね、トーコさん!」
「あ、……うん!」
ここまでくると、去る身の自分が居たたまれなくなってくる。だけど、

「夜の世界とバイトしか知らないのに、そんな私をここに推薦してくれた透子ちゃんには本当感謝してる……」
涙ぐむゆかりさんを見て気持ちが前向きになる。

私、良いことしたんじゃない?

「誠一も私が夜に居なくなるのが少なくなって、喜んでるし。本当にありがとう。」
深々と頭を下げた。

「や、やめてくださいよ!私も困ってたし……誠ちゃんも喜んでるのなら何よりです!仕事も私以上にできるし。」
「そんなこと無いわ。何年もここで培ってた透子ちゃんの能力を越えることは難しいけど、私……頑張るから。透子ちゃんの推薦を無駄にはしないわ。」

私を見つめたゆかりさんの瞳は強い意志を持っていて、頼もしかった。

「今度の透子さんの送別会とゆかりさんの歓迎会の時、誠ちゃんも連れてきてくださいよ!」
ミキちゃんが言うのに
「そんな……!会社の飲み会に子供を連れて来れないわ。」
「大丈夫!娘の私から言っておきます!」
「ダメよ!そんな事は……」
「構わんよ。」

背後から社長に声をかけられ、三人とも口を閉じ後ろを振り返る。
「一人で留守番するにはちょっと小さすぎるし、うちは親族も沢山いる同族会社だから問題ない。ここに娘もいるし。」と、ミキちゃんを顎で指した。

「……ありがとうございます。このご恩は一生……」
「やめてくれ。そんな高給取りには出来んからな……」
「十分です。頑張ります。」「よろしくね。」

照れながら笑った社長はとっても可愛らしかった。


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