コクリバ 【完】
「目、閉じろよ」

穏やかな声で、その人は肩に置いてあった手を、背中に滑らせた。

「やっ……」

私は慌てて両腕に力を入れて離れた。

黒髪の背の高い男。
特徴のある低い声に、切れ長の目。
整った顔なのに、無愛想でいつも怒ってるように見えるから、近寄りがたいイメージがある。
だけど、吉岡の憧れの先輩。


「あ、初めてだった?」

お腹に響くような低い声、
微かに細められた切れ長の目---

カッと頬が熱くなった。

遊ばれてる!

それが、私が彼、高木誠也(たかぎせいや) に持った初めての印象だった。

そして、このコクリバでの出会いから、私の人生の中で最も激しい一年が始まった。
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