コクリバ 【完】

返事

くるりと後ろを向くと、全力でその場から逃げた。

「名前くらい教えろよ」

後ろから低い声が聞こえたけど、無視して走った。

やけに大きく聞こえる砂利をける足音。
ドキドキが抑えられない。

くやしいのか
悲しいのか
それとも……

走っていれば答えが出そうな気がして、ただ夢中に走った。

気が付くと、校門の手前まで来てた。

このまま家には帰りたくない。

振り返って校舎の方へ向かった。

休みの日の美術室には誰もいない。
独特の絵の具の匂いがするそこは、居心地が良くて、落ち着ける場所。

窓際にあった椅子に座り、ぼんやりと外を眺めた。

校舎越しの青い空
薄い青から濃い青へ
綺麗なグラデーションが広がっていて
こんな素敵な色が表現できたら……

何かから逃げるように、絵の具の配分を考えた。

初めての失恋と
初めてのキスに

涙は出なかった。
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