コクリバ 【完】
12月に入る頃になると、私と市原先輩の噂なんてもうどうでもよくなったみたいだった。
ただ、まだ一部の熱狂的な市原ファンに目の敵にされているのは続いてたけど。
その人たちが見えるとサッと逃げるようにしていた。

12月と言えば、もうすぐ高木先輩の誕生日。

先輩が誕生日について話していたのを思い出す。
誠也の由来、お母さんの話、弟の反抗的な話……

誕生日プレゼントを何にしようかと考えていた。

どうやって渡すとか、もらってくれるとか、そんなことは考えないで、先輩なら何を一番喜んでくれるかと、そのことだけを考えていた。


2学期の期末試験の最終日。
帰りに一人で本屋に入った。

プレゼントを選ぶのに何か良いヒントはないかと探したかった。

しばらく店内を見ている内にふと視線を感じて顔を上げると、
そこにいたのは市原先輩の熱狂的なファン集団。

一瞬にして寒気を感じ、持っていた本を捨てるように置いて、小走りに本屋の出口に向かった。
ファン集団からは視線を逸らし、そっちを見ないようにしながら……

だけど、
本屋の前の駐車場で捕まった。


「逃げるなよ」
前に回り込んできた3年女子が私の右肩を叩く。

「シカトすんなよ」
後ろにいた他の女が私の背中を押す。

「呼び出したらすぐに来いよ」
左に回った女が私の髪を掴む。

「返事は?」
「…はい…」
「気持ち悪っ」
「自分のこと可愛いって思ってるだろ?」
「教えてやるよ。おまえがどれだけブサイクか…」

その言葉と同時に捕まれた髪を引っ張って、無理やり倒された。
駐車場の車止めに左足が乗って、踏み外した時にグキっという痛みが走る。

「うっ」

痛みに顔を歪めると、集団が笑い出した。

「ひっどい顔」
「あはは、ブサイクー」

笑いながら4人は横に倒れた私を踏みつけた。
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