コクリバ 【完】
結局、市原先輩は高木先輩に何も話してくれなかったってことだ。

敢えて言わないのか
言うチャンスが無かったのか

高木先輩からの電話がかかってこないということは、高木先輩がずっと誤解したままだということ。

どうしてあの時電話に出なかったんだろう。

どれだけあの日に時間を戻したくても最後に携帯が震えたあの瞬間に戻ることはなく、何度も何度も後悔だけが襲ってくる。

押せば良かった。
通話ボタンに触っていたのに……
もしあの電話が繋がっていたら……

胸が千切れそうな後悔が涙となって、毎日9時になると流れた。


学校では、あの市原先輩の彼女という地位が重く圧し掛かってきてた。

多くは市原先輩のファンなんだろう、すれ違いざまに

「たいして可愛くもないのに…」
「調子乗り過ぎなんだよ」
「ブス」
「消えろ」
いろんなことを言われた。

何度も屋上や教室棟の裏に呼び出されたけど、行かなかった。
段々その行為はエスカレートしていて、身の危険まで感じるようになった。

すれ違う時に突き飛ばされるようになったのは、文化祭や美術コンクールも過ぎて、寒くなりだした頃。

なるべく一人では行動しないようにしていた。
靴やスリッパは教室まで持って入った。

高木先輩と付き合ってることが知られてたらもっと酷かっただろうと思うと、誰にも言わなかったのは正解だったのかもしれない。

そんな感じで2学期はずっと辛い毎日をやり過ごしていた。
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