ここで息をする
「じゃあまず、台本配りますね」
以前より少し片付いているように見える長机。今日はその一角に、どんと存在を主張している白い紙の山があった。どうやらそれが台本らしい。
スチール棚に一番近いところに座っていた佐原先輩が、その山から一部ずつ台本を取って全員に回していく。前回と同じホワイトボード付近の端の席に座っていた私は、左隣に座っていた航平くんから受け取った。
手元に届いた台本に、興味と緊張で胸を高鳴らせながら目を向ける。台本はきちんと製本されたような冊子ではなく、何枚かの用紙がホチキスで留められて出来たものだった。
表紙の中央に大きな字で『In the water』と印字されている。これが今から作っていく映画のタイトルのようだ。
1枚めくると、今回の配役とそれぞれ制作スタッフの役割分担などが書かれている。その次のページには撮影のタイムスケジュールや撮影場所といった制作に関わる情報がずらりと並んでいた。そこにざっと目を通している中、高坂先輩が説明を始める。
「今回はプールのシーンがあるということで、プールの使用許可を取った。ただし水泳部顧問の三浦先生の同伴が必須で、使えるのは水泳部が使用していない時間帯のみ。主人公が水泳部で練習するシーンでは実際に水泳部の人達にエキストラとして出てもらうことになってるけど、その際の撮影だけは水泳部の実際の練習に混ぜてもらう形で撮ることなった」
「……え? そんなこと、水泳部の人達が許してくれたんですか?」
前回同様に私の正面に座っている高坂先輩、そして左隣の水泳部所属の航平くんにそれぞれ疑問の眼差しを向けた。
撮影期間は7~8月中(主に夏休み中)と書かれているけど、それって水泳部にとっては屋外プールで練習する大切な時期だ。大会だってあるし、その練習中にプールにお邪魔するなんて難しいんじゃないだろうか。