ここで息をする
航平くんの言葉は、私が小学生の頃からいつも夏休み最終日まで宿題を残す常習犯であること知っている幼馴染みならではのからかいだった。
もうすぐ訪れる夏休みに欠かせない存在を思い出して眉間にしわを寄せると、私の難しい顔に航平くんはくすくすと笑っている。その自然な笑顔を見たらちょっと安心して、私もふっと口角を上げた。
てっきり高坂先輩のしつこい勧誘に押されてこんな大変なことを引き受ける羽目になったんじゃないかと心配もしたけど、どうやらそういうわけでもないらしい。
事前に説明もしていたみたいだし、高坂先輩もそこまで無慈悲でもないようだ。……ていうか、出来ることなら私にももう少し撮影期間とか共演者が航平くんであることとか、内容以外の詳しいことを説明してもらいたかったけど。
そんな不満を含めて、じろりと高坂先輩の方に目を向ける。だけど先輩は手元の台本に目を落としたままで私の視線に気付くこともなく、その体勢のまま淡々と説明を再開した。
「……で、次はキャストと映研部メンバーの役割についてだけど、それは1ページに書いてある通りだ。主人公の“ハル”役が波瑠で、その幼馴染み役の“コウ”役が航平だ」
何か、名前がすごく意図的なんだけど……。
私と航平くんの実名から名付けられたような名前を見て唖然とした。先輩がこの脚本を作った頃からすでにこの役を私達にさせるつもりだったという思惑を感じてしまう。それともイメージに合うと言っていたのは、偶然名前が似ていたってことだったのだろうか。
「……台詞が多い……」
「そりゃあ、主役だからな」
ぱらぱらとめくった台本に何度も登場する“ハル”の台詞の多さに思わず嘆きを呟くと、それを高坂先輩に拾われてしまった。
さっきまではちっともこっちを見る気配がなかったのにいつの間にか顔を上げていて、私と航平くんにそれぞれ目を向ける。