ここで息をする
リハーサル通り、肩にかけているスポーツタオルで濡れている髪を拭く素振りをして、落ち込んでいるように見せるためにやや俯きながら指定された場所まで歩いた。
そして坂道の中頃まで下ったとき、高坂先輩の声が入り込んできた。
「……カット! よし、一発オッケーだな」
張り詰めていた空気が一瞬にして和らぐ。安堵の波が一気に押し寄せてきて、こっそり息をついた。ゆっくり意識して呼吸すると、いつしか肩に入っていた力もすっと引いていく。
「じゃあ次は、シーン10―2だな。さっき歩いたスピードと同じになるように頼む」
「分かったよ」
「波瑠はリハーサル通りの場所で止まるのを忘れないようにな」
「分かりました」
今から撮るシーンでは、私は途中で立ち止まることになっている。念のため高坂先輩に言われたことを再度頭に入れながら、さっき下りてきた道を引き返した。今度はカメラマンの如月先輩も一緒に坂の頂上に向かった。
でも如月先輩は私達よりも先に坂の中頃で足を止めて、坂道の端に陣取りながら私達の姿を映すためにカメラを構える。
私達の動きに合わせて坂を下る如月先輩は後ろ向きに進まなければならないようで、試しに足元の安全を確認しながら歩いていた。本人は案外平気な顔で迷いなく後ろに進んでいるけど、見ているこっちがひやりとする。
だけど今は、人の心配をしている場合ではない。さっきの撮影で引っ込んでいた緊張が、再び私の中心で暴れ始めている。
坂下に居た他のメンバーもさっきより私達に近い場所に移動していて、純白のレフ板から反射される太陽光が私と航平くんを際立たせていた。
次のシーンの準備は万端なようで、張り詰めた空気が再び全身を包み込み始める。