家族の絆
 親父さんに会うためにここに来たので、やはり、思い切って『このお店の以前にあった〔ひょっとこ〕というすし屋を知っている?』と聞いてみた。親父さんが一年半前に亡くなって女将さんが居酒屋に造り替えたということと頼まれれば、たまにその女(こ)は来ているということだった。それをきっかけに少しは話が進んだが、話題になったことは、料理をつくるのが好きだということと一週間したらここを止めて、銀座のお店に勤めることが決まっていることや浜松が田舎で、いま29歳だがこの8月で30歳になるのだと自分のことを淡々と話すだけで、こちらのことは一切聞こうとしなかった。その女(こ)の名前はユキといった。色白で少しきつい感じだが、美人の部類に入るだろうと思った。他にお客さんがいなかったので、ユキと2人だけでいることに多少重苦しいものを感じて、銀座のお店に行くようになったら連絡をくれるということで、小一時間ほどで引き上げた。
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