家族の絆
 あの時、祐一との話の成り行きで、ついつい銀座のお店なんていったものだから、変な話だけど、ちっちゃな目標みたいなものができたのだという。銀座のお店で働くのだという。
「でも、本当に困ったのよ」
ユキは、さっきの悲しみから一歩抜け出したような感じになった。求人広告なんかも見たが、そんなもので探したくなかった。1週間たっても決まらなくて本当に困っていたようだ。
 3月の終わりに、目黒駅前の不動産屋を訪ねて、お店の権利書の譲渡処理を行った。これが最後の手続きだったので、ほっとして、その近くの自然教育園にふらっと立ち寄った。山手線の内側にあって、近くに首都高も走っているのに、からすの割合が多いのがちょっと気に入らないが、自然に親しむにはもってこいのところである。園内のひょうたん池で水面を見ながら休憩している時に、偶然に池田さんと知りあった。この池田さんがクラブ〔水蘭〕のオーナーママだったということだ。
 銀座のお店に行くことが決まって直ぐに案内状を送ったが、4月になってからの連絡になってしまったのを少し後悔していたとのことだった。その上、実際に通うようになったのは4月19日の金曜からだったので、祐一に案内状を送ってから、山崎祐一という人から連絡があったら調子よく応えておいて欲しいとママに頼んでおいた。実際に祐一がクラブ〔水蘭〕に初めて行ったのが、4月22日の月曜でユキにしたら働き始めて2日目というタイミングだった。
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