冷たい男
私はなるべく、呼び出しを避ける為に自宅以外では吸わないようにしてるのに、隣で何度も吸われたら、私の我慢も限界となる。

朝の登校前に吸ってから、何時間も衝動を抑えてるのに、ニオイだけでなく煙も浴びせて来られては、私も手が伸びてしまう。



「晩ご飯、どうする?」



「寿司」



「だと思った」



平日は、私がここに居る事が許されてる。

帰っても1人で、私は寝室のクローゼットの隅に隠されたお泊まりセットから着替えを取り出しながら、お寿司屋さんへと電話注文。

それからシャワーを浴びて、風岡が愛用するシャンプーの香りに包まれた。

今日は月曜日。

5日間のお泊まりが始まる。

しかし、土日は家に帰される。

1年も経てば慣れた生活。

だけど、慣れない事もある。

洗濯機を開けば、2日間ではやけに多い使用済みのタオルがあり。

寝室を掃除すれば、茶髪の私のものではない金や黒の長い髪の毛や、ヘアピンなどを見付ける。

痛む胸を気のせいとしてやり過ごし、風岡がシャワーを浴びてる間にやって来たお寿司の会計を済ませて、冷たいお茶を飲んで待つ。



「はい。これ」



私は風岡に、今日見付けた忘れ物のバレッタを渡して、小皿へと醤油を注ぐ。

風岡はそれをゴミ箱へと投げ入れ、何事もなかったように、お寿司へと手を伸ばした。

それはいつもと変わらない行動。

彼が私に気を使う事がない証拠。
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