あ、あ、あ愛してる
横浜。
異国情緒漂う街並みに、一際映える白亜の学舎が聳え立つ。

名門と呼ばれる大学。
聖奏学園大学附属高等学校、音楽科ヴァイオリン専攻2年生。

「仕方ないわね。有栖川くん、座っていいわよ」

まともに喋れない俺が、「LIBERTEのボーカル綿貫和音」だと疑う者はいない。


「月日は百代の――――」

古典の女教師は舌打ちをし、自ら奥の細道を読む。


「同じ和音なのに、綿貫和音とはエラい違い。『ダサAlice』」

俺はここで、ボサボサ髪で黒縁眼鏡の地味で冴えない風貌の学生と言われている。


「聞こえるわよ。チクられたらヤバいから。彼の父親、学園の理事会役員なんでしょ」


「だって、吃音で筆談したり手話したり、喋ろうとするたび悲壮感半端ないんだもの。ひどい時には過呼吸で倒れたり」

いつも聞き慣れた言葉だと、聞き流そうとする。
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