真夜中のアリス
"瑠衣ちゃん"
目を閉じると、ほら、こんなにも近くに感じられる。
穏やかな笑顔で優しいテノールのような低音であたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。
こんなにもはっきり思い出せる、すぐに蘇るのに。
「…どうして、目の前にいてはくれないの?」
こみあがる愛しさばかりで現実を理解してくれず、それを受け入れなければならない悲しさで息がとまりそうだ。
頬を伝う暖かい何か。足元に一滴の染みが拡がる。次々と溢れ出す涙で前が見えなくなる。
「なんで…いてくれないの…っ!ずっと、傍にいるって言ってくれたのに!
もう無理だよ…、苦しいよ。会いたいよ…朱鳥くん…っ」
気がつくとあたしは傘を投げ捨て豪雨の中、駆け出していた。