【続】興味があるなら恋をしよう

紬の身体のほてりが収まって、部屋に入った。

ベッドでは寝ない。…当然だ。

俺はソファーでいいと思っていた。
課長の家のソファーはシングルベッドくらいあった…。


紬が予備の布団があるからと、それをリビングに敷いた。
勿論、ダブルではない。
シングルだ。

ベランダ寄りに敷いた。

今夜は月が綺麗だ。

折角だから、カーテンを少しだけ、開けたままにした。


「紬、戸締まりはどこも見たか?大丈夫か?」

「はい、フフフ。大丈夫です」

「ん?」

「なんでもないです」

「俺達は」

「ソフレです」

「ん。……そうだな」


二人で布団に入った。
手を取った。

「抱きしめるけどいいか?」

「はい。私も抱きしめます。いいですか?」

「ああ」

何もしない。
何も出来ない。

心地いい。


「紬…」

返事はない。俺は紬の唇に触れた。
紬は起きているだろう。でも何も言わない。

…抱きしめた。
紬は隠せない。

「前科…何犯だったかな」

独り言を呟いた。

…。

「……これで、六犯です。でも…、一度リセットされてますから。今は前科は無い事にします」

唇に触れる事。駄目に決まってる。人の奥さんだ。勿論こうして一つの布団に寝る事だって。
だけどこれは“許容範囲”だ。 ですよね、課長。

知ったらきっと怒るだろう。当たり前だ。立場が反対でも、本気で許容範囲に収まる事なんかじゃない。
でも、許容範囲だと言うだろう。俺を知ってる課長だから。


「紬?…寝たのか」

抱きしめた。
…これは独り言だ。

「紬?…紬が妊娠したかもって心配してただろ?
俺、子供が出来てたら、嬉しかったかも知れない…。
かも知れないって言い方だけど、そんな気持ちじゃないんだ。本当に嬉しかったと思う。
無責任だって…怒るか?俺、出来たらいいなんて謀ってした訳じゃ無いからな?
…あんな時は、普通、そのままだろ?
目茶苦茶、情熱的なんだから、そのままするだろ?
…だから、紬が帰る時、もし、生理が遅れてるとか、妊娠の可能性が濃くなったりしたら、心配するなって、言おうと思ってたんだ。
そうなったら…課長が何て言うかも大体解るけど…、俺は子供の親になるからって、言おうと思ってたんだ。
一度の事だけど、どうなってもいいなんてやけくそでしたとか、そんなんじゃない。
紬の事が好きで、だから、抱いたんだ。
俺は紬が飛び込んで来てくれて嬉しかった。俺も紬に飛び込めた。
後悔はしてない。ただ、困ってるだけだ…。
やっぱり、好きだって事だ。これは、ずっと変わらない。
この年齢でそう思う相手が出来たら、…もう無理だな。紬を忘れて…別の人と、気持ちを殺してまで居る事は出来ない。
今夜泊まる事、課長は知らない。俺が理屈を付けて来たんだ。
だから、藍原は知らなくていいんだ。
何か聞かれたら、俺が来た事はそのまま話せばいいから。何も心配無い。大丈夫だから。
ごめん…俺も、我が儘だからな」

はぁ…、紬。
こんなに近くに居るのにな…。初めから紬は近くに居た。

ん?紬…。
紬が抱きしめてきた。

あ、ああ、…また、俺の事、課長だと思ってるのか…。
…そうだよな。…きっとそうだ。

(「……尚紀さん、…」)
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