【続】興味があるなら恋をしよう
×1
辞令が出た。
課長、一条匠は部長に。
坂本尚紀は課長になった。

フロアの一角。
ガラス張りで囲まれたその部屋からは、いつでもどこも見渡せる。
この場所にこの部屋を造る事が、課長が部長になる際に出した条件。
簡単な事だと何の問題も無かったと聞いた。
…どっちが偉いんだろうと思ってしまった。

そして、坂本さんは課長の古巣ともいえる場所に今は座っている。
坂本さんはここに来てからまだ短い。
でも坂本さんの業績は、以前居た神奈川からずば抜けていたらしく、課長になる事に異論は無かった、と聞いた。

これは今城部長から聞いた話です。
私が今城部長に初めて呼ばれたのは、課長が出張から戻って来てから後の事。
それからは長い時間では無いけど呼ばれる事が多くなった。

一条君なんだけど、仕事では藍原君だったね、なんて話から始まり、一体呼ばれた意味はなんだったのだろうと思った。
終始、他愛ない話ばかりで。

今城部長は、無理を言って一条君に部長になって貰ったと言う。
私はこの人事に関しては何も知らない。
課長からも経緯は何も聞いていない。
辞令にある文言通りにしか知らない。

その理由を今城部長に特に聞き返したりもしなかった。
私が知っていい事なら、問わなくても、今城部長が話すはずだし。
夫に興味の無い妻だと思われたかしら…。
…課長にとってこれはマズイ事かしら。

失礼しましたと、今城部長の元からフロアに戻ると、…課長、…部長に呼ばれた。
どうやら戻るのを待ち侘びていたようだった。

「藍原、ちょっと、いいか?」
< 118 / 140 >

この作品をシェア

pagetop