【続】興味があるなら恋をしよう
●(おまけⅡ)
≪紬の母が託すモノ≫

あ、やっぱり…。
必ずいつかは来てくれると思っていました。
やはり貴方は、紬と縁のある人なのですね。

…とても重い話なの。
紬の事なんです。

だから、…坂本さん、他の誰でもない、貴方には知っていて欲しいのです。
私達夫婦が居なくなってしまったら、誰もこの事を知る人が居なくなってしまうから。
これはあの子の兄も知らない事なんです。

あの子は、紬は…、夫との子ではありません。
紬の本当の父親は別の人です。

夫が出張で家を留守にした日がありました。
兄はまだ赤ちゃんでしたから…何も解りません。

紬の本当の父親は、橘クリニックの院長、私の幼なじみのしんちゃんなんです。

…人がこれを、過ちと言うのなら、過ちなのでしょうね…。
でも、……私は私の意思でした事です。
過ちなんかではありません。後悔もありません。

しんちゃんは、近所のお兄さんで、小さい頃からとても大好きでした。
そして、いつしか、淡い思いだったモノが、掛け替えのない人になりました。

何があっても…、事あるごとに、いつも私に、大丈夫だ俺が居るからと、関わってくれました。
何故かいつもタイミングがいいんです。

…好きで好きで、凄く好きで…、好きでいるのが…恐くなりました。
失うのが恐いと思ったからです。
嫌われて離れるような事があるくらいなら、このままの方がいいと思いました。

…私は夫と結婚しました。
私は…結婚相手に夫を選んだのです。
夫は私の全てを包んでくれる、とても優しい人です。
私が、誰かに思いがあるという事も、知っていたと思います。
その上で結婚を望んでくれました。

どんな私も…好きで堪らないと、言ってくれました。
私はその言葉に捕われたのだと思います。
…夫に甘えました。

あの子を妊娠したと解った時、夫は何も疑いませんでした。
私達は…ずっと円満でしたから、その時も夫婦の関係もありました。
だから、何一つ、妊娠を疑問に思う事はなかったんです。

あの子は私に似ています。
凄く似ています。

外見が、父親似になっていたら…どうだったのでしょうね。

しんちゃんと夫は血液型も同じなんです。
だから普通は解りません。
…DNA鑑定をすれば、解ってしまう事です。

妊娠した…それだけでは、どちらの子なんて明確に解らないじゃ無いかと思うでしょ?
でも、私には解るんです。
紬はあの時の、しんちゃんの子だって。
…女には不思議と解るんです。

しんちゃんは結婚しませんでした。
今も、ずっと独身です。

お父さんの後を継いで、お医者さんになったから、跡取りをと、…だから、随分お見合いも勧められました。
でも、結婚しなかった。

しんちゃんは、ずっと、私と紬の事を気にかけて見守ってくれています。

…夫は何も言いませんが、紬は自分の子ではないと知っています。
…私がずっと、…心の奥で思い続けている人の子だと。…知っています。

……。

紬の事は、お腹の中に生を受けた時から、ずっと、大事に大事に思って育ててくれました。
紬の事が可愛くて仕方ないって。

…私は、ずるい女なんです。
ずっとずるい女なんです。

しんちゃんの事、ずっと好きなんです。
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