世界はまだ君を知らない



「提案なんだが……うちに泊まらないか?」

「へ?」



真面目な顔で彼が言ったそのひと言に、一瞬意味が分からずきょとんと首を傾げてしまう。



うちに、って……仁科さんの家に?

泊まらないかって……え!?



「えぇ!!?」



次第にその言葉の意味を理解し、大きな声をあげた私に仁科さんはいたって冷静なまま頷いた。



「お前、明日も出勤だろ。なのにこの分じゃ電車が動くのがいつになるかもわからないし、ホテルに泊まるのも勿体無い。うちなら徒歩で30分くらいかかるが、それでも早く休めるだろ」



そりゃあそうだけど……でも。



「い……いいんですか?」

「ダメならそもそも提案しない」



恐る恐る聞き直すけれど、彼はなんてことないかのように首を縦に振った。



いいのかな。ただの部下なのに、家に泊めてもらうなんて。

恋人でもない人の家に泊まることを受け入れるなんて、と思われるかな。

それにもし職場の誰かにバレでもしたら、面倒なことになるかもしれない。



……そうあれこれと思うけれど、嬉しい気持ちは変わりない。



「……じゃあ、お言葉に甘えて」



思いのままに小さく頷くと、私は仁科さんとともに駅から歩き出した。






< 107 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop