世界はまだ君を知らない
「提案なんだが……うちに泊まらないか?」
「へ?」
真面目な顔で彼が言ったそのひと言に、一瞬意味が分からずきょとんと首を傾げてしまう。
うちに、って……仁科さんの家に?
泊まらないかって……え!?
「えぇ!!?」
次第にその言葉の意味を理解し、大きな声をあげた私に仁科さんはいたって冷静なまま頷いた。
「お前、明日も出勤だろ。なのにこの分じゃ電車が動くのがいつになるかもわからないし、ホテルに泊まるのも勿体無い。うちなら徒歩で30分くらいかかるが、それでも早く休めるだろ」
そりゃあそうだけど……でも。
「い……いいんですか?」
「ダメならそもそも提案しない」
恐る恐る聞き直すけれど、彼はなんてことないかのように首を縦に振った。
いいのかな。ただの部下なのに、家に泊めてもらうなんて。
恋人でもない人の家に泊まることを受け入れるなんて、と思われるかな。
それにもし職場の誰かにバレでもしたら、面倒なことになるかもしれない。
……そうあれこれと思うけれど、嬉しい気持ちは変わりない。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
思いのままに小さく頷くと、私は仁科さんとともに駅から歩き出した。