世界はまだ君を知らない




変われて、いる?

私、ちゃんと、あなたの言葉に応えられている?



いきなり呼び出した昨夜の電話を、迷惑などと言わずに、証だと言ってくれる。



「変わろうともがく千川は、とても懸命で綺麗だ」



その言葉とともに、柔らかな微笑みを見せて。



包んでくれる大きな優しさが、嬉しくて、愛おしくて、あふれる気持ちが涙になって頬を伝う。

涙を指先ですくうと、仁科さんは私の頭を胸に抱き寄せ、ポンポンと頭をなでてくれた。





彼がこんなにも優しくしてくれるのは、上司としての責任感からだと分かっている。

それだけだと、それ以上はないと、何度も何度も言い聞かせている。



だけどそれでも、この心はそれ以上の意味を願ってしまう。

その理由は、たったひとつ。



彼の香りと体温に抱きしめられて、心が穏やかになっていく。

その中で、しっかりと実感したのは、揺らぐことないこの気持ち。



彼のことが、好きだという気持ち。







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