世界はまだ君を知らない
第四章

◇優しさの正体






仁科さんのことが、好き。



その気持ちを実感すると恥ずかしくて、心の中がくすぐったい。



だけど確かに、芽生えた恋心は

ひとつひとつ、私を変えてくれる。







朝、出勤前に立ち寄った駅前のドラッグストアで、ハンドクリームを手に取った。

この時期は乾燥するから、欠かせないんだよね。あ、ついでにリップも買っていこう。



手同様に乾燥しやすい唇を指先で撫でながら、売り場に目を移す。

すると目に入ったのは、化粧品コーナーにあった小さな鏡。



それを覗き込み、改めて自分の髪を見れば、長さが少し伸びた気がする。



……髪、しばらく伸ばしてみようかな。

見慣れるまでは違和感しかないかもしれないけど、たまには。



視線を売り場に戻し、いつもの薬用リップへ手を伸ばしかけたところで、違うものに目がとまる。

それは、『ほんのりとした色づき』と書かれた、ピンクやオレンジなどの色付きリップだ。


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