世界はまだ君を知らない



そうだ。トラブル防止のため、女性のお客様の場合は男性スタッフは触れられないんだった。

呼ばれる前に気づいて動くべきだったかも、と思いながら、私はお客様の荷物を台に置き、サンプルのベッドに横になる女性の体を支えサポートした。



「あら、いいわね。すごくやわらかい。でももう少し固めのほうがいいかしら……」

「でしたらお隣のマットレスが一段階柔らかなものになります。ご予算に合うようでしたら、お客様の体に合わせてのオーダーメイドもございますよ」



感触を確かめるお客様に、仁科さんはすかさず言葉を挟む。

そして「あらそうなの」「これいいわね」と瞬く間にお客様は納得し、購入手続きを行い……。





「ありがとうございました」



あっという間に高額のマットレスが一点、仁科さんの接客によって売れていった。

お客様が去って行った途端に、仁科さんはパッと元の無愛想な顔に戻る。



「……さて、どうだ?勉強になったか」

「お、恐れ入りました……!!」



けれどその接客の丁寧さや上手さはやはり圧倒的で、私と藤井さん、見ていた皆は声を揃えて頭を下げた。


< 25 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop