世界はまだ君を知らない
「いらっしゃいませ、本日はどのような商品をお探しですか?」
すると、仁科さんが見せた表情は、ニコッと爽やかな笑顔。
先ほどまでの厳しい顔が嘘のようなにこやかな表情で、仁科さんは女性のお客様の話を聞きながら2階へとあがってくる。
「新しいマットレスですね。ではぜひ、こちらのほうで実際にお試しください」
え、笑顔が眩しい……!
接客も親切丁寧で、なにを聞かれてもすぐ答えられる。鮮やかなその接客に、私と藤井さん、遠目から見ていた皆もぽかんと呆気にとられてしまう。
「弊社のマットレスは自社製の高密度スプリングを使用しているので、バランスもよく通気性もいいんです。耐久性もいいんですよ」
内部のコイルの説明を、サンプルを見せながら丁寧にしていく。
指先ひとつすらも美しい、その仕草に見とれていると不意に仁科さんと目が合った。
「千川さん、ベッドのご試用のサポートについてくれるかな」
「えっ、あっはい!」
『千川さん』の呼び名と先ほどより柔らかな口調に、一瞬戸惑いながら、慌ててお客様の横につく。