SNOW

邂逅

依子がまだ7歳の時。母が死んだ。
父は大手企業に勤めていたが、母の看病をきっかけに会社を辞めた。
二人は本当に愛しあっていた。依子が生まれ、家庭内は暖かく光に包まれていた。
しかし、母が病に倒れ、小さな病院に入院したことで、家庭内に怪しい翳が差した。
父は懸命に母を看病していたが、新しい仕事にも慣れず疲労感に苛まれていった。
やがて季節は移り変わり、母は衰弱していき、偶然にも依子の誕生日に死んだ。
父は悲しみに暮れ、仕事も多くなり、身体と心を病み、依子が中学に入学直後、首をつって死んだ。
依子は泣いた。桜と雪が舞う中で、空を仰ぎ、泣いた。

それからすぐ叔母に引き取られ、叔母が大家をしているアパートに一人暮らしを始めた。


久しぶりに、夢を見た。
まだ私が幼い頃。
夏に降る粉雪の中、私は父に肩車をされ、日傘をさし長めの白いワンピースを纏った母と公園で遊ぶ夢を。

愛されていた。私は確かに愛されていた。
ああ、これは夢だ。だから私はこの愛に包まれていたんだ。


いつの間にか眠っていた。
「朝ご飯、どうしよう…」
今日は学校の補講に行く気分にはなれなかった。
「…冷蔵庫、食べ物何もないなあ…仕方ない、コンビニいってお弁当買いに行こうかな。」
外に出ると、やはり雪は降っていた。真夏の雪。今日は日差しも少なく、空は曇天だ。
「厚着してきてよかった…」
お気に入りの傘をさし、近くのコンビニまで歩く。
「…あれ。改装中だ…」
依子の住むアパートから一番近いコンビニエンスストアは運悪く改装工事をしていた。
「仕方ない、ちょっと遠出しよう。運動にもなるし…」
公園で遊ぶ小学生たちを横目に歩きだした。

つもりだった。

どん、と大げさな\音をたて、依子の身体が後ろに倒れた。

「いっ…った、「大丈夫ですか!?」

依子は尻餅をつき、痛みを感じた直後、男性の声が頭の上から降る。
日差しのない空と降りしきる雪と一緒に、眼鏡をかけた黒髪の男性の慌てた顔を見上げた。


これが、天宮依子と向居夢の出会いだった。
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