きみのためのプレゼント
はっとなって、口を噤む。こんなことを言いたかったわけじゃない。目の前の岡部さんは、驚いた表情を浮かべて、私を見ていた。部活やタイム、先生。すべて八つ当たりだ。

「あ、その、部活とかっていうのは、走れる羨ましさで。その・・・」

言葉を濁したものの、声を荒げるなんてきっと、想像できなかったんだろう。でも、真剣な顔をした彼女は、私が思いもしない言葉を告げた。

「・・・私、今の聞いて、尚更友達になりたくなった。こんな風に気持ちをぶつけてもらえて、嬉しかった。初めて、藤野さんとちゃんと話せた気がする。藤野さんのこと、もっと知りたいし、仲良くなりたい」


「・・・私は、仲良くなんて、なりたくない」



どうして、あんなことを言ってしまったんだろう。「そっか」と悲しそうに呟いた彼女は目に大粒の涙を浮かべたまま、保健室を後にした。


その後、松岡先生が戻ってきたけれど、私は何も言えなかった。


岡部さんが、本当に私と仲良くなりたいと思ってくれていることが嬉しかった。だけど同時に彼女の熱い思いに応えることが怖かったんだ。


人と距離を置いていた私がうまく、彼女と付き合えるはずがない。


友達になれば、嫌われたくないからあれこれ考えて話をしたり、行動を取らなければならない。自分を偽ってそれでも嫌われたくないからと、昔の自分に戻るのはもう嫌だ。



それにそんな思いを岡部さんにもさせたくない。
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