きみのためのプレゼント
本当なら、立ち上がって背を向けて立ち去りたいけれど、それが出来ないから精一杯の反抗を込めて彼に背を向ける。ごめんと何度も謝られるけれど、なかなか素直に許せない。



「ごめん、藤野さん。からかうつもりはなかったんだけど、あまりにも真剣に悩む表情が可愛かったから。ごめん、本当にごめん」



何度も何度と謝る姿と、「可愛い」の一言で、彼に向き直す。私という人間はこんなにも単純なものだったのか。それとも好きという感情が私をこんなにも単純な人間にさせるのか。


「前園光は、俺の大事な友達だったんだ。小学校が同じでね。中学は離れたけど、こんな足になっても、何も変わることなく接してくれて、休みの日は、二人でいろんなところにも行ったりした」


「私でいう、ハルみたいな友達?」


「そうだね。岡部さんみたいな感じかな。でも、もういない。光はもう、いない。二度と会えないんだ」


私が振り向いた瞬間、ほっとした表情を浮かべた藤本くん。だけど光くんの話を始めたときから、どんどんと暗い表情へと変わってしまった。


そんな彼を見ている私も辛くなって、うつむきながら握りしめた手にそっと触れた。


「バースデーブルーって知ってる?誕生日の28日前後に自殺することを言うんだけどさ、光は二年前の誕生日、七夕の日に自殺したんだ。まさに、バースデーブルーだった。直接的な原因はわからないけれど、俺、その日、あいつにメールを送ったんだよ。で来た返事が藤野さんの携帯に残ってるメール」


「いつも気にかけてくれて、ありがとう。これからもよろしく」そのメールを受け取った彼は、まさかその日に光くんが亡くなるなんて夢にも思わなかったそうだ。


しかも自殺という形で。


彼の手が震えていることに気がついた私は、添えていた手をそっと絡めた。
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