腹黒エリートが甘くてズルいんです
一瞬『近い! 何これ顔も身体も近い!』と怯むものの、どうにもできずに、なんてことないふりをしてみる。
どうかこの心臓の音が酒井くんに聞こえませんように!


肌が触れないように、と、変なところに意識を向けつつ、一緒に覗いた画面は、あたしと酒井くんとのラインのやりとり。
そこに書いてあったのは……


『もう大丈夫。あたしは、来年の4月から幸せになることになったのでご安心ください』


「な?」
「ね?」


ほぼ同時にお互いに自分の主張に、手応えを感じて顔を見合わせる。


そして、お互いに相手のそのどや顔に疑問を抱く、というコントのような流れ。


「これ、あたし、覚えてる。出光先輩に、退職じゃなくて異動しろよってアドバイスもらって、未来の希望に満ちあふれながら打ったやつ! ほらね、どこにも結婚なんて書いてないじゃない!」


そのときのトイレの情景が、思い浮かぶ。
突然のキス以来、気まずく音信不通気味になっていたこともセットで思い出してしまったけど、そこに関しては黙っておく。
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