大人にはなれない
「お、何何この険悪な雰囲気。息吹とミキちゃんケンカなの?いいぞー、もっとやれー!」
微妙な空気になりかけたところで、すかさず割って入ってくるのは斗和だ。
「今のはミキちゃんも悪いんじゃね?だって俺らはおまえに進路話してあったけど、ミキだけ今まで秘密にしてたんだから。お互いに知って、これでフェアだろ?」
「………はあ?俺斗和の志望校なんて聞いてねぇよ」
「あれれ?ミキちゃんに話してなかったっけ?俺の進路希望はバスケの強豪校行くこと!」
「だからどこの高校だよ」
「決めてない!だって今スポ推で入れてくれるトコ選んでる最中だから!俺学力ヤバいから一般受験だったら絶望的じゃん!」
「誇らしげに言うな」
「だから推薦希望なのよ。で無事入学したら1年で華麗にレギュラー奪取して、インハイ優勝!学校1のモテメンの地位をゲットすんの!」
「あっそ。息吹が同じガッコにいなきゃ、おまえレベルでも1番になれるかもな、まあがんばれ」
「うっわ、なにその全然心のこもってない応援っ。で、で、で。息吹王子の第一志望は?」
バスケをしてるときと同じで、バカみたいに明るい斗和の話し方は、人をたのしいことに巻き込んでいくような勢いがあって。固い表情をしていた息吹も、思わずといった風に口を開いた。
「俺は海灘高校行く。で、主席合格する」
「うわー、超難関校っ。しかも受かるの前提で一等賞狙いとか、さらっと大きく出たねー。さすが王子!第二希望は?」
「考える必要がないから何も考えてないよ」
「え、すべり止めとか受けないの?」
「だって俺、落ちないし」
「…………わー、その自信すげーなー。俺も『あと5年でスティーブ・ナッシュを越えるぜ!』とか宣言しておいた方がいい?」
「美樹に『NBAナメるな』って叱られるからやめておきなよ。……ああ、あと俺、高校在学中に新人賞も獲ってデビューするから」
ツッコミ待ちの前振りにしか思えないその宣言に、黙っていられなくなった俺は、気まずくなりかけていたはずの息吹に思わず言っていた。
「…………今の全力でボケたんだよな?……もしかしてまだ気付いてないならはっきり言っといてやるけど、息吹、おまえの画力はプロになれる・なれない以前のレベルだぞ」