大人にはなれない

「やっぱ心境の変化あったんだ。前は美樹、奨学金に頼るの、抵抗あるみたいに言ってただろ」

そう聞いてくる息吹も斗和に比べると控えめな反応だけど、なんかうれしそうに唇をきれいな形に持ち上げる。たぶん俺が女だったら悩殺されてる類の笑顔だ。

「抵抗っていうか……奨学金借りたくても、連帯保証人と保証人になってくれる大人探さないといけなからな……ウチじゃ無理って諦めてたんだよ……」


去年、家計が苦しくて俺は進学できないかもしれないって不安になったとき、真っ先に奨学金を借りることが思い浮かんだ。たぶん家の状況も俺の成績も審査を通る程度ではあるだろうけど、ひとつだけ問題があった。

奨学金っていうのはいくら善意の下で貸し出されるからといって、ようは借金だ。多額の借金をするためには、『連帯保証人』と『保証人』という、借金の責任を一緒に背負ってくれる大人がふたり必要になる。

より責任の比重が重い『連帯保証人』は母さんに頼めるだろうだけど、あともう一人、『保証人』になってくれる人のアテがなかった。ほとんどの人は親戚のおじさんとかおばさんにお願いするものらしいけど、俺たち家族には親戚はいない。

保証人っていうのは万が一俺が借金を踏み倒したときは、代わりに返済をしなくてはならないのだから、赤の他人がそんなリスクのある役割を引き受けてくれるわけがないし、お金は必ず揉め事の種になるから他人を巻き込んではいけないとも父さんにきつく言われていた。だから奨学金を借りることは早々に諦めていた。


「けどさ、なんか一口に奨学金っていっても、いろいろ種類あるみたいで。連帯保証人だけいれば貸してもらえるヤツもあるみたいなんだ。だったら検討するだけならいいかなって……」

「なんだよそれ、よくわかんないけどいいじゃんっ。ミキ、進学しちゃえよ!」

「おまえな、簡単にいうなよ。まだ母さんに言ってないんだ。もしかしたら反対されるかもしれねぇし……」

「まさか!おばさん、んなこと言うわけねーじゃん!!」

「母さんの場合、はっきり言わねぇから困るんだよ。………表立って反対しなくても、本音じゃ俺働いて金入れた方が助かるって思ってるかもしれねぇじゃん……」

「バカっ!!ここはゴネていいとこだぞっ。ここで我慢して、何年後に不満爆発してミキがグレたら目も当てられないだろーがっ」


自分のことのようにやたらと息巻く斗和に思わず苦笑してしまうと、斗和は歯痒そうに息吹を見る。


「あーあー、じれってぇなっ、息吹も黙ってないでなんとか言ってやれって!!」


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