大人にはなれない

「わかったから斗和、落ち着きなよ。別に俺が何言っても言わなくても、美樹はちゃんと自分がいいと思ったことを選べるヤツだから心配ないって」

「……おげっ。おまえらの相思相愛、そろそろ倦怠期入っておけよっ、キモキモっ」

斗和はそう言いながら俺のことをバシバシ叩いてくる。遠慮がなさ過ぎて正直腹が立つほど痛いけど、その痛いところから斗和の俺への心配だとか気遣いだとかが伝わってくるから文句を言う気にはなれなかった。


「ともかくさっ、高校は行けるなら行くに越したことねーじゃん?奨学金の希望出しちゃえよ。一人じゃ心細いなら、この斗和様が一緒におばさんに頼みに行ってやってもいいからさっ」
「さすがに斗和、それはやめておきなよ。人の家の事情に足突っ込みすぎだから」

「えー他人じゃないし。俺とミキの仲だもーん」
「そう言ってってまた美樹に『貸し』だとか言って将来合コンだとかナンパに付きあわせようとしてるんだろ」

「だってー。俺とミキちゃん組んだらいくらでも女の子落とせそうじゃん?あ、でも息吹はいらないから。女子全部持ってかれるの目に見えてるからおまえ来ないでね!マジでお断り!勝手にどっかでカノジョ作ってろ!」
「はいはい、斗和の頭は幸せだね。ほんと幸せだね、とにかく幸せで何よりだね」

「3回も言うなよ、なんかムカつくわー」


バカなこと言う斗和と冷めた息吹が、アホみたいな応酬を続けてるのを見て思った。

もし俺が本当に高校に行けるんだとしても、斗和とも息吹とも別々の学校に進学することになるはずだから、来年からは小学校からずっと一緒だったこいつらと毎日顔を会すこともなくなるんだって。……なんかまだ今は全然想像がつかないけど。


「けどホント、まだどうするかは決めてない」

進学諦めて働くって決心したはずなのに、やっぱちょっとでも可能性がありそうだと進学したい気持ちを抑えられなくなって、でもやっぱ働くべきだとも思って、気持ちがあっちこっち振れる自分がなんかカッコ悪い。そんな自虐見透かしたように、息吹は涼しい顔で言う。

「それでいいんじゃない?まだ一学期だし。美樹は自分の気持ち定まんないの嫌かもしれないけどさ、それなりに時間かけて考えていいことだと思うし」

もしかして息吹は俺の気持ちなんて特別な『目』で見えてるのかと思うけど、今日の息吹の目はフツウにきれいな目のまま。

やっぱこいつは特別な力なんてなくても、すげえヤツなんだろう、たぶん俺が無意識でいちばん欲しいと思っている言葉を、息吹はピンポイントで寄越してくる。


「………とりあえず、奨学金の申請条件とかもうちっと詳しく調べてみるつもり」
「それがいいと思うよ。おばさんには条件クリア出来るってお膳立て出来てから相談すればいいし」

「だよな。……まあ希望者はほぼ審査通る奨学金らしいんだよな、交通遺児の奨学金って」


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