大人にはなれない

「…………交通遺児……?」

なんでか息吹がひどく驚いた顔をする。

「ああ」
「それって、ミキん家みたいなとこ?」

斗和がこいつにしてはめずらしく、おそるおそるって雰囲気で聞いてくる。俺の本当の両親が交通事故に遭ってるって息吹と斗和には前に話してあった。


先々週のみらい塾で、飛田さんが交通遺児専用の奨学金を教えてくれた。

それは親が交通事故で障害を負ったり亡くなったりして困窮した家庭を支えるための奨学金で、給付型(返さなくていいやつ)とか貸付型(返さなきゃならない)だけど無利子のやつとか、いろいろ種類があった。

中には保証人を立てなくても、連帯保証人だけいれば借りることが出来そうなやつも。


「へー、ほんといろいろあんだ、上手いこと支援してもらえるといいなー」
「ホントまだ調べる最中だし、どうなるかわからないけどな。条件いろいろ比べてみる予定だけど、今のところ一番良さそうのなのは遺児用のヤツかって思って……」

「でもまだ他の奨学金も考えてみるんだろう」


急に息吹が、俺の言葉を食い気味に言ってくる。突然遮られるほど、たいしたことは話してないのに。


「………息吹?」

「ああ、ごめん。…………そろそろ委員会の時間だよ。準備しないと」


笑みを浮かべてそう言った息吹は、たぶん誰から見てもいつもの王子然とした息吹にしか見えないだろう。でも俺にはその横顔が笑みでもごまかせないくらい動揺した、強張った表情に見えた。


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