大人にはなれない

10) 軋みだす関係



10) 軋(きし)みだす関係



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悪いことが起きる予兆なんて、あとから思い起こしたときに気付くもんで、小さな違和感に何かを察するなんて俺には出来ないことなのだろう。



------父さんがまだ生きていた頃。

ときどき俺のいない場で、父さんと息吹が話し込んでいるのを見掛けることがあった。

いつもふたりは声をひそめて、顔を俯かせていた。今から思えばあれは、人目を避けていたんだろう。ふたりがどんな顔で何を話しているのか、俺が知れたことはない。

(何話しているんだろ。父さんは俺にも話せないことでも、息吹にだったら話せるのかな)

気付かれないように、遠巻きからこっそり見ていることしか出来なかった俺は、2人が一緒にいるのを見るたびにいちいち傷ついた。

(息吹の方がしっかりしてるから?………父さんは俺じゃ頼りに出来ないのかな……)

そのとき小学生だった俺は、そんなさびしさだとか不満をぶつけ損ねたまま父さんに逝かれてしまった。



* *


放課後だった。


「あっ、いた!」

顧問の西宮先生に指示された花壇の草取りをしていると、中村がやってきた。

「おつかれ、美樹くんっ」
「おう」

駆け寄ってきた中村は、俺が手入れしている花壇をきょろきょろ見渡す。

「大変そうだね」
「別に」
「でもこのおっきい花壇、一人で手入れしてるんでしょ?」

「……これくらいたいしたことない。西宮先生はこの花壇どころか、中庭一人で全部きれいにしてるし」
「でも園芸部って美樹くんくらいしかちゃんと活動してないじゃん?教頭先生と二人で学校中きれいにしてるんだから、やっぱ大変だよ」

別れた直後は廊下ですれ違っても口を利かなかったけれど、毎週土曜日に『みらい塾』で会うようになってから、中村は学校でもよく俺に話し掛けてくるようになった。

噂好きの斗和によると、中村は友達とかクラスメイトに俺とよりを戻したのかとからかわれているらしい。中村がそれになんて答えているのかは、斗和はニヤニヤするだけで俺に教えてきたりはしなかった。


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