大人にはなれない

「去年ここに植えてた青い花も、きれいだったよね」
「サルビアだろ、それ」

夏場にもってこいなはっきりした色なので、たしかにすごいきれいだったけど、がっちり根を張る植物なんで抜くときはすごい苦労した。

「え、サルビアって赤じゃないの?」
「サルビア・ファリナセア、通称ブルーサルビアって品種もある。北アメリカの花で、花言葉は尊敬。……よく見る赤いのはサルビア・スプレンデンス。スプレンデンスって光り輝くって意味で、家族愛が花言葉だったかな」
「相変わらず美樹くん、すごいね……なんでもよく覚えてて」

花の名前だとか基本情報は、園芸部で活動しているうちに自然と頭にインプットされていただけだ。でも花の話題になると、中村はいつも顔を赤らめる。

女子なのに花に全然詳しくないことが恥ずかしいらしいが、俺には恥じらう理由がいまいち理解出来ない。


「今年は何を植えたの?」
「今年は--------」

答えかけて、すぐに言葉を飲み込む。

顧問の西宮先生にこの花壇丸ごと任されて、俺が今年植えようと選んだのは色鮮やかな夏の花。中村がいちばん好きだと言っていた花だ。


「…………手前がビンセントタンジェリンと、プロカットバイカラ―、中段がサンリッチフレッシュオレンジ、パナッシュと東北八重、それに奥にはサンタスティッククリアイエローも植えた」
「ごめん、どんな花か全然わかりませんっ」

わざと品種名で答えているんだから、中村がわからなくて当然だ。

「ねえ、どんな花が咲くの?たくさん植えたみたいだけど、何色系?」
「さあな」
「教えてくれてもいいじゃん」
「秘密」
「………もう、美樹くんってときどき意味分からない意地悪するよねっ」

中村はわざと唇をとがらせて、半分ふざけて「怒ってます」みたいな顔をする。


これからこの花壇いっぱいに咲く花の花言葉。-----『君だけを見ている』


ただの花の説明でしかないのに、中村の前で口にしたら何か特別な意味のある言葉になってしまいそうで、俺は口を噤む。

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