大人にはなれない

先生に呼ばれて、教室の奥でブロック遊びに夢中になっていたひまりが振り返る。俺を見ると、にたあっとしあわせそうに微笑み、そのまま駆け出してこようとした。だから慌てて止める。

「おい、ひまり。おまえ自分が遊んだものは自分でちゃんと片付けろ」

ひまりは俺にたどり付く手前で立ち止まると、敬礼みたいなポーズをとって元気に「はいっ」と返事する。それから片付けすら遊びであるかのように、元気にカゴの中にブロックを次々投げ入れる。少々乱暴なのはご愛嬌だ。


「ほーんと、美樹くんしっかりしてるわねぇ。もう少し大人だったら、うちの娘のお婿さんに来てもらいたいぐらいよ」

そばで見ていた森先生が感心したようにほぅと溜息をついた。

「片付けのことまで気付くなんて、美樹くんそこいらのパパより『イクメン』じゃない。親御さんが立派な方なのね」

先生に面と向かって褒められるのは照れ臭いけど。父さんと母さんのことを褒められるのはうれしかった。

母さんはちょっと頼りないけど優しくて、父さんは口うるさいけど、俺の目からみても立派な大人だったと思えるきちんとした人だったから。自分が褒められるよりうれしいことだった。

「みっくん!」

床に散らばっていたブロックをすべて投げ込むと、ひまりが3歳児にしては細く小柄な体で足元に飛びついてきた。

「おっと。片づけは?」
「できた!!」
「じゃあ帰るか」
「うん!!」

お迎えが俺だったことに今日は泣かないでくれたひまりにほっとしつつ、先生に挨拶をして、夕暮れの中をふたり並んで歩いていく。

「みっくん、みっくん。なにもってるの?」

ふくらんだエコバックに気付いたひまりは目をらんらんとさせて訊いてくる。ひまりは身体つきこそ小柄だけど、その分言葉がはっきりしていて、クラスでいちばんおしゃべりが上手なのはひまりなんだと、担任の先生から聞いていた。

「これ?ごはんの材料」
「えーおやつは?ひまり、おやつがいい!」
「……今度由愛に買ってもらえよ。もうすぐバイト代入るはずだから」
「うん!ひまりと、みっくんと、ゆあちゃんと、あとママ!みんなでおやつたべよ。ひまり、みんなのことだいすき!」

無邪気な顔して言われて、すこし胸が痛む。

ひまりは由愛と俺のことを姉や兄だと思っているけど、本当は叔母と叔父だ。ママだと思い込んでる人だって、ほんとうはひまりのママじゃない。


----------我が家はいろんな爆弾を抱えているのだ。

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