潮風の香りに、君を思い出せ。
「それで最初の話に戻るけど、強いって言われてるけど、自分では勇気がないって思うの?」

あかりさんが最初の話につなげてくれる。

「昨日思い出したおばあちゃんの家に行こうって言われてるんですけど、行きたくないんです」

「行かなきゃいけないの?」

「うーん、行きたくない感じがするんです。そういうのって珍しいから、行ったほうがいいのかなって。怖いもの見たさみたいな。
でも、行きたくなくてここに寄ってもらったらナナさんに会っちゃって」

すっかり話しやすくなって、結局ナナさんのことが気になっていると話している。あかりさんは面白そうに笑った。

「あはは。来なきゃよかった?」

「いえ、そんなことはなくて。ちゃんとするまでは付き合えないって言われたし」

うわぁ、私って自分勝手な発言してる。ちゃんとかたつけてきて欲しいみたいだよね、偉そうに。

「七海ちゃんにも彼氏いるって聞いたけど」

「大地さんにも言ったんですけど、ほぼ自然消滅なんです。でもはっきりさせないとダメだって。なんか変に律儀。いろいろ私に自分で決めさせるし」

あかりさんが楽しそうに聞いてくれるからつい愚痴ってしまった。それが大地さんのいいところだって思うんだけど、今さら彼と話すのは気が重い。

「すごい。わかってるね、あいつのこと。そういうところ、面倒だと思ったりする?」

「ずるいって思いますけど、優しいんですよね」

「優しい?」

「大地さんに合わせるんじゃなくて、自分で決めてって言われてる気がして。大人だなぁって」

強引な人に引っ張られて文句を言ってるくらいのほうが楽だと思う。でも、私がちゃんと自分で選んでいいって、何回も教えてくれてる。
   
「そうか。優しいと思えるんだ。それは私も嬉しい。よろしくね、大地のこと」

あかりさんは目尻にしわを寄せて、大きく微笑んだ。

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