潮風の香りに、君を思い出せ。
「よかったらお線香上げさせてもらえますか?」

しばらくおばあちゃんの思い出話を聞いた後、大地さんがそう聞いて、二人で縁側から和室におじゃました。

仏壇のお線香は、普通の緑のものでなく茶色くて変わった深い香りがした。

「このお線香、いい匂い」

「白檀のね、変わったものでもないけどちょっと高級品なの。おばあちゃんが好きでね、今もたまにね。今日もなんとなく朝からこれにしたのよ。虫の知らせかしらね」

おばさんの説明を聞くと、大地さんが驚いた様子で私を見た。

「もしかして、さっきこの匂いがしたから思い出した?」

「たぶん」

障子が開いたとき、香りが外に漏れてくる感じがした。おばあちゃんの匂いだった。好きだったけど、嫌いになって忘れていた深い香りだった。

「すごいな、やっぱり。またそうやって思い出すんだな。来てみてもわかんなかったのにね」

「はい」



おばあちゃんにあいさつをして、おばさんにお礼を告げて、二人でまた歩いて車まで戻る。

大地さんは、あまり話さなくなった私を気にしていたかもしれないけど、何も言わなかった。

つながないと言ったはずの手を途中から包み込むように握られて、港に戻るためにまた薄暗い林を抜けていった。
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