猫の湯~きみと離れていなければ~

「…陽向、怒ってる?」

「怒ってはないけど心配はしてた」

「うん、そっか。…ごめんなさい」


逆の立場だったら、わたしも心配で心配で仕方がなかったはず。

そのまま黙りこんでしまったわたしに助け船をだすように、陽向は明るく聞いてきた。


「じゃあさ『いろいろ』は鈴が言いたくなったときでいいけどさ、俺、どうしても聞きたいことが1つだけあるんだよ」

「なぁに? 」

「向こうの生活はどうだった? 」


どうだったってどういう意味なんだろう?


「楽しくて戻ってきたくなかったとか、つまらなかったとかあるじゃん? 」

「それなら、すごく楽しかったよ」


わたしの返事を聞いて陽向は安心したように微笑んだ。


「どうして? そんなにわたしが心配だった? 」

「そりゃな。最後に会った鈴は大泣きしてて、俺は何にも言えなかったからさぁ」


それって引っ越しのときの話だよね。
息ができなくなるまで泣き叫んだあのとき。

思い浮かべそうになる光景を思い出したくなくて、わたしは無理矢理に記憶を押し込んだ。
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