派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
 誰かって。
 この家には、自分の他には、渚しか居ないはずだが。

「は、入っちゃ駄目ですよっ」
とドアの鍵を閉めると、

「莫迦か、お前は。
 この鍵、こっちからも開くだろうが」
とすぐに向こうから開けてくる。

 そ、そうだ。
 この鍵、両側から開くんだった。

 小さい子供の事故防止のためについているだけなのか。

 どちらからも鍵の開け閉めができる。

 蓮は身体でドアを抑えて言った。

「そこを開けたら、自決しますっ」

 江戸時代か、と呟いたあとで、渚は首を捻りながら言う。

「どうせ、いつかは見るのにな」

 見せませんよっ、と言う前に居なくなっていた。

 つ……疲れる人だ。






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