派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
「困った人なんだよ」
と言うが、微笑ましげに笑っていた。

「それで、お前が蓮のお守りをしてるわけか」

「まあ、今は近くに住んでるからね」

 ああ、わかってるんだ? となにがとも言わずに、未来は言った。

「それで?」
「いや」

「そう。
 じゃあ、よく考えて動いてね。

 これ、蓮に渡して。

 蓮のお母さんから。
 蓮が好きな水ようかん」

 じゃあね、と未来は手を挙げ、行ってしまう。

 高そうな店の水ようかんだ。

 それを目の高さに掲げて、眺めたあとで、
「……そういえば、忘れてたな」
と呟く。

 蓮を妊娠させないといけないんだった。

 だが、そんなことをまた口に出したら、殺されそうだな、と思う。

 特に、今は。

「渚さん。
 渚さーん」
と風呂を出たらしい蓮が呼んでいる。

 エレベーターホールに消えた未来の姿はもうない。

 中に入り、鍵をかけた。




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