派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~




「ああ、疲れた。
 ただいまー」
とマンションの鍵を開けて入ると、煮物のいい匂いがした。

「あ、お帰り」
と男の声がする。

 いや、だから、なんで居るんだ、と思いながら、リビングに行くと、テレビの前の小さなテーブルに一人分のご飯が並んでいた。

 相変わらず、美味しそうだ。

「お帰り。
 そろそろ帰るかと思って、あっためておいたから食べて」
とキッチンから顔を出したのは、古田未来(ふるた みらい)という大学生だ。

 いまどき茶髪の如何にもな大学生だ。

「……また、持ってけって頼まれたの?」

 うん、そう、と彼は言う。

「おばさんが持ってって。
 まあ、ついでがあったからね」

 彼は昔から、実家の近くに住んでいるのだ。

 懐かしいいい匂いがするな、この大根の煮物、と思いながら、
「ありがとう。
 でも、いいのに。

 わざわざめんどくさいでしょ?」
と言ったが、

「いいよ。
 この近くのカラオケで友達と待ち合わせてるし。

 それに、おばさんに頼まれてるんだ。
 男の影でもあったら報告してって」
と笑って言ってくる。

 とりあえずなさそう、と余計な言葉も付け足して。
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