派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~




 渚が風呂に入っている間、蓮は炭酸水を飲みながら、ソファでぼんやり考え事をしていた。

 その視界に、テーブルの上のティアラが入る。

 部屋の明かりでもよく輝いた。

 いろいろ思い出し、笑ってしまう。

 これをつけたまま、雨の中、車を押したこととか。

 通りがかりの人が見たら、ギョッとしたろうなとか。

「気に入ったか?」
と後ろから渚の声がした。

 振り向くと、バスタオルを腰に巻いただけの渚が立っていた。

「……すみませんが、服を着てくださいませんか?」

「お前が用意してくれた服、入るわけないだろうが」

 うーん、と蓮は困る。

 そう言われても、あのサイズを間違えて買ったパジャマ代わりのスウェットの上下が我が家では最大サイズの服なのだ。

「しかも、お前。
 可愛いクマちゃんまでついてるじゃないか」
と胸許の小さなプリントを見せて言う。

「そりゃ私のですからね」
と言い、蓮は笑った。
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