派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
 渚が、その可愛いクマちゃんのスウェットのパーカーを着たところを想像したのだ。

「服、早く乾くといいですね。
 浴室で乾燥にかけときますよ。

 今日、どうやって帰りますか?」

 その格好じゃ帰れないですよね、と言うと、渚はソファの背もたれに手をかけ、
「帰らないって言わなかったか」
と言ってくる。

「……さっき、未来がちゃんと言えって言ってきたぞ」

「え、なんて?」

「子供が欲しいからお前と居たいんじゃないって」

「なんで、未来、その話……」

 言い終わらないうちに、渚が肩を抱いて、口づけてきた。

 また逃げそびれてしまったのは、本当は逃げたいと思っていないからだろうか。

 ふとそんなことを考えてしまう。

 離れた渚に言う。

「服、急いで乾かしますから、帰ってください」

「乾くわけないだろ。
 濡れたまま帰れとか鬼か」
と言いながら、片手で顎をつかんでくる。

「鬼でもいいです。
 帰ってください」

 帰らない、と真正面から蓮の瞳を捉え、渚は言う。

 そのまま唇を重ねてきた。
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