派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
 そのとき、電話がかかって、渚は話しながらメモを取っていた。

 出て行くべきかな、と思ったのだが、内線電話だったようだし、黙って、その様子を見ていた。

 電話を切って顔を上げた瞬間、渚に言った。

「渚さん、好きです」

 ポロっと渚がペンを落とす。

「ど、どうした?」
と渚が言い終わるのを待たずに出て行った。

 また電話が鳴ったようで、渚は、追っては出られないようだった。

 扉越しに渚が話している声を聞きながら、そういえば、声も好きだな、と新しい発見をする。

 こうして聞いていても好きだけど。

 耳許で囁かれると、ぞくりとする。

 ……なんだ。
 私、結構、渚さんのこと、好きなんだな、と実感した。

 蓮は考え事をしながら出来る作業に専念した。

 名簿にスタンプを押す。

 心を飛ばしていてもできる仕事だからだ。

 そのうち、無心にスタンプを押していた。

「蓮、おい、蓮」

 呼ばれて、ようやく顔を上げる。
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