派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
 



 うおっ、雨だ。

 傘ないのにっ。

 仕事が終わり、玄関ロビーまで降りた蓮は、そこでようやく、雨が降っていたことに気がついた。

 音もなく降っていたので、わからなかったのだ。

 いつの間に~。

 コンビニで傘を買おうかな。

 いや、すぐそこだから、走って帰ろうかな、と思っていると、
「どうしたの? 秋津さん」
と声がした。

 振り向くと、脇田が立っていた。

「ああ、いえ。
 雨、降ってたんですね」

 気がつかなかった、と言うと、
「もしかして、傘ない?」
と訊いてくる。

「そうなんですよー。
 降ると思ってなかったから。

 でも、すぐそこなんで、走ろうかな、と思って」

 じゃあ、と脇田は軽い口調で言ってきた。

「僕が入れてってあげるよ。
 ちょうど、あっちに用事があるから」

「えっ。
 悪いですよ、そんな」

 いいよ、いいよ、近いから、と言いながら、外に出た脇田は傘を差した。




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