派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
 それに気づいていないらしいあの男はある意味、幸せなのかもしれないが。

「和博さんに経営を任せるとかはないと思うけど。
 私との結婚にも、特に反対はされなくて。

 この話をどうするかは私に任せるとおっしゃったの。
 それでおじ様たち、調子に乗っちゃって」

「金も女もいる、か。
 いっそ、言ってみたいな」
と変に感心して和博の去った雨の街を眺めていると、

「脇田さんでも、そんなこと思うんですか?」
と蓮がこちらを見上げて笑う。

「いや、金はいいけど……」

 そこで思わず、蓮を見てしまった。

「いや、別にそういうのはないよ。
 僕もさ。

 ほら、秋津さんが渚に言ったっていうみたいな、平凡な暮らしがしたいなって思ってるから」

 狭いアパートの一室で、夫婦二人で穏やかに。

 と思ったが、すぐに特に狭くもない蓮のマンションが思い浮かんだ。

 やっぱり、この人にはそういう暮らしは合わないか、と自らの妄想に苦笑する。

「ところで、課長代理って誰?」

 蓮が笑った顔のまま、フリーズしていた。





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